クラウド環境構築の課題をOCSで解決する
mdx利用事例 CASE 11

クラウド環境構築の課題をOCSで解決する

国立情報学研究所(NII)の大江和一 特任准教授は、「学認クラウドオンデマンド構築サービス(OCS)」の運用を担当しています。「NIIが主催した学術情報基盤オープンフォーラム2025での講演冒頭で、『OCSをご存じの方はいらっしゃいますか?』と尋ねたところ、手を挙げたのは数人だけでした。この記事をきっかけにOCSを知っていただき、mdxだけでなくOCSも使ってみたいと思っていただければうれしいです」と大江 特任准教授は語ります。OCSとは何か、またmdxをどのように利用しているのか、お話を伺いました。
大江 和一 氏 大江 和一
Oe Kazuichi
国立情報学研究所
クラウド基盤研究開発センター
特任准教授

専門はコンピュータシステム、システムソフトウエア、オペレーティングシステムの研究開発。1988年、九州大学工学部情報工学科卒業。1988年、富士通株式会社入社、1992年、株式会社富士通研究所に異動。2016年、九州大学大学院システム情報科学府社会人博士課程修了。博士(情報科学)。2020年より現職。

OCSは環境構築を楽にする


── 学認クラウドオンデマンド構築サービス(OCS)とは、どのようなものですか。

大江:教育や研究の現場で「このアプリケーションを使いたい」と思うことはよくありますが、多くの場合、それを動作させる実行環境を自分で整備しなければなりません。しかし、環境構築や運用には高度な技術と専門知識が必要で、高いハードルとなっています。OCSはこうしたハードルを下げ、環境構築や運用をより簡単に行えるサービスです。

OCSは、2018年にサービスを開始しました。私は2020年にNIIに来て、2022年からOCSの責任者を務めています。

── アプリケーション環境の構築には、具体的にどのような困難があるのですか。

大江:まず、構築に当たってはオンプレミス(施設内の設備)にするか、クラウド環境にするかを選ぶ必要があります。さらに、クラウドにも商用や学術用など複数の選択肢があり、どれを利用すればよいか迷われるケースも多いです。

次に問題になるのが、ネットワーク接続の設定やアプリケーションのインストール作業です。これらの作業は煩雑で、しかもクラウドプロバイダごとに手順が異なります。そのため、一度あるプロバイダで環境を構築すると、別のプロバイダに移行するのは容易ではありません。環境ごとに実行方法が異なり、手順の見直しが必要になるためです図1
図1 従来のクラウド環境構築
図1 従来のクラウド環境構築
── OCSを利用すると、環境構築の作業はどのように変わるのでしょうか。

大江:OCSは、クラウドプロバイダごとに異なる環境構築の手順を隠すことができます。ユーザーは、商用クラウドであれ学術クラウドであれ、さらにはオンプレミス環境であっても、同じ手順で環境を構築できます。オンプレミスと複数のクラウドをまたいでアプリケーションを配備することも可能です。

この仕組みを実現しているのが、「仮想コントローラ」です。ユーザーは、OCSのコントローラの操作方法さえ理解していれば、クラウドの種類に関係なく環境構築が可能です。操作はとても簡単で、仮想API経由で提供されるテンプレートを指定して実行するだけです図2

利用機関、クラウドプロバイダ、コントローラは、SINETで接続します。SINETは、NIIが構築・運用している最大400Gbpsの世界最高水準の学術情報ネットワークです。この接続は仮想プライベートネットワーク(VPN)によって安全に行われ、複雑な設定を行う必要がない点も、OCSの特徴です。
図2 OCSを用いたクラウド環境構築
図2 OCSを用いたクラウド環境構築

OCSのクラウドプロバイダにはmdxがおすすめ


── OCSではmdxをどのように利用しているのでしょうか。

大江:OCSは、複数のクラウドプロバイダに対応しています。mdxもその一つです。ほかには、商用クラウドのAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)、さくらのクラウド、Oracle Cloud Infrastructureに対応しています。

── 対応クラウドプロバイダの一つとしてmdxを採用している理由は何ですか。

大江:SINET接続が容易で使いやすいですし、多くの研究者が使っているので情報共有しやすいという特徴があります。クラウドプロバイダの選定は利用者の判断にお任せしていますが、ご相談いただいた場合には、まずmdxをおすすめしています。

大学や研究機関が初めて商用クラウドを利用しようとすると、契約形態や支払い方法が障壁になり、手続きに時間がかかることがあります。一方でmdxは、学認アカウントがあればスムーズに利用を始められ、料金体系も国公立の大学や研究機関の会計制度になじんでいるというメリットがあります。

── 海外にもOCSと同様のサービスはありますか。

大江:クラウド環境の構築をサポートするサービスは海外にもありますが、私の知る限り、複数のクラウドプロバイダに横断的に対応しているものはほとんどないようです。このような点からも、OCSは非常にユニークなサービスだと言えるでしょう。

OCSの開発・検証・試験運用にもmdxを利用


── OCSでのmdxの利用は、クラウドプロバイダとしての役割だけですか。

大江:いいえ、現在5つのプロジェクトでmdxを利用しています。具体的には、OCS Developer、OCS Developer Ⅱ、YamaguchiHub-1、OCS MCJ trial-2と-3です。

OCS Developerでは、その名のとおり、OCSの開発を行っています。先ほど触れたように、OCSはクラウドプロバイダごとの環境構築の手順の違いを吸収・統一する機能を持っています。この仕組みを実現するコントローラの開発やさまざまな検証作業を、mdxを利用して行っています。2021年のmdxサービス開始当初から継続して利用していますが、パフォーマンスも十分で、コスト面でも優れているため、開発環境として最適だと感じています。

OCS Developer Ⅱは、当初は開発用でしたが、現在は別の用途で使っています。私たちはOCSをより多くの方に知っていただくため、ハンズオンセミナーを定期的に開催しています。その演習用の環境として使用しているのです。

── YamaguchiHub-1の“Yamaguchi”とは?

大江:山口大学を指しています。NIIと山口大学が共同で、MCJ-CloudHubというOCSを利用した講義演習システムを開発しました。この開発と、現在の運用にYamaguchiHub-1を使っています。

開発のきっかけは、3年ほど前に山口大学の講義演習システムに関する発表を聞いたことです。そのシステムは、コンピュータシステムに詳しくない文系の教員や学生でも画面上のボタンから直感的に操作でき、管理者も年度初めに環境構築を行うだけで運用できるなど、非常に魅力的なものでした。

発表後の質疑応答では「自分の大学でも使いたい」といった声が多く上がっていましたが、すべて丁寧に断られていました。というのも、そのシステムが山口大学のオンプレミス環境に依存しており、他大学での運用は難しいという制約があったためです。その後、発表者である山口大学の齊藤智也先生に、私から「この講義演習システムを他大学でも利用できるように、一緒に取り組んでみませんか」とメールでお声がけし、共同研究が始まりました。それが、MCJ-CloudHubです。

── MCJ-CloudHubの開発において、重視した点はどこですか。

大江:まず、山口大学に特有だったシステム設定を一般化しました。加えて、OCSで利用できるようアプリケーションテンプレート化したことにより、各大学のオンプレミス環境やクラウド環境でも、柔軟に運用・構築が可能になりました。

このMCJ-CloudHubは、山口大学の講義演習システムの優れた点と、OCSの機能的な利点を組み合わせたものになっています。ぜひ多くの大学で活用いただきたいと思っているのですが、利用者がなかなか増えないのが現状です。

そこで、MCJ-CloudHubの良さを実感していただくために、mdx上に試用環境を用意しました。それがOCS MCJ trialです。最初に立ち上げたtrial-1は、すでに試用期間を終え本運用に移行しています。現在はtrial-2とtrial-3の2件が稼働中です。

ぜひOCSのご利用をご検討ください


── 今後、OCSをどのように展開していこうとお考えですか。

大江:OCSは2018年にサービスを開始し、私が責任者になってからも3年がたちます。現在もさまざまな検証や機能の見直しを進めていますが、あわせて、より多くの方々にOCSをご利用いただけるような取り組みにも力を入れていきたいと考えています。

教育・研究の現場では、「このアプリケーションを使いたいが、そのための環境を自分で構築しなければならない」といった場面が少なくありません。そうしたときに、OCSを活用いただければ、環境構築の手間を大幅に軽減し、作業の負担を小さくすることができます。試用環境も用意しており、サポート体制も整えています。OCSにご興味をお持ちいただけましたら、ぜひOCSのウェブサイト ※1 ※1 学認クラウドオンデマンド構築サービス(OCS)
https://cloud.gakunin.jp/ocs/
をご覧の上、お気軽にご連絡ください。
OCSを使うと
クラウド環境の構築が簡単にできます。ぜひOCSを多くの方に利用していただきたいと思います。

── 大江 和一 氏
大江 和一 氏
取材・構成:鈴木志乃/フォトンクリエイト
撮影:石渡菜々子/STUDIO CAC
※1学認クラウドオンデマンド構築サービス(OCS)
https://cloud.gakunin.jp/ocs/